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自然災害時の労務管理について

以前も触れた通り、千葉では昨年秋の台風・豪雨により甚大な被害が生じました。

 

その際、事業者様から多くお問い合わせいただいた事項の一つとして、「台風で休みにした場合、休業手当の対象となるのか?その金額は通常と同じなのか6割補償でよいのか」という点です。今回はこの問題について考えていきます。

 

まず、労働者が休業する(所定労働日にもかかわらず業務を行わない)場合としては、大きく次の3パターンがあります。

 労働者に帰責性がある場合(寝坊や病気など、労働者の都合で休んだ場合)

 使用者に帰責性がある場合(手配ミスなど、使用者の都合で休まされた場合)

 使用者・労働者いずれにも帰責性がない場合(自然災害などの不可抗力)

 

まず、①で休業補償が不要であることは言うまでもありません(ノーワークノーペイの原則)。

次に、②については、労務の提供がない以上、本来であれば労働者は賃金を受ける権利を失いますが、それが使用者の故意・過失又はこれと信義則上同視すべき事情による場合には、賃金全額に相当する反対給付を請求できると考えられています(民法5362項本文)。

 なお、労働基準法26条は「使用者の責に帰すべき事由」による休業について平均賃金の6割以上の支払いが必要としていますが、これは、上記の故意・過失(運送業での積荷の手配漏れ、事務所の開錠忘れなど)だけでなく、経営・管理上の障害による休業(経営不振による休業、原材料不足による休業、機械故障による休業、ライン労働者の不足による休業など)を含むより広い概念と解されています。

 以上に対し、③については賃金や休業手当の支払いは不要です(民法5361項)。

 

 実際には、100%支給すべきか60%の支給でよいか判断に迷う場面は多いのですが、この点は数々の裁判例などで個別具体的な判断が示されておりますので、またいずれご紹介してみたいと思います。いずれにせよ、検討順序としてはまず使用者側に帰責事由があるかどうか、裏を返せば休業が「不可抗力」と言えるかどうかが出発点となります。

 

 ここで 「なんだ、台風は不可抗力だから休業手当は必要ないんだな」というのは早計です。

 一口に「台風で休業」といっても、色々なパターンが考えられます。

 

原則として、②の場合は使用者には休業手当の支払義務が生じ、③の場合は生じないということになりますので、「不可抗力」という要素をどのように考えるかが問題となります。

不可抗力とは、「休業の原因が事業の外部要因によるものであり、事業主が予見不能で注意義務を尽くしても発生が避けられないもの」を指します。自然災害は、一般的には会社経営とは関係なく発生しますので、それ自体は不可抗力と認められ、労基法上では休業手当を支払う義務は使用者に発生しないのが原則です。ただし、例えば台風被害が事前に予想されたため前日に休業指示を行ったものの、当日になるとそれほどの勢力ではなく、公共交通機関での通勤が十分に可能であった場合は、休業が自然災害そのものによって発生したとは言い切れない場合が出てきます。一方で、暴風雨が吹き荒れる中で出勤命令を出し、通勤時や業務中に事故が起きた場合、使用者は安全配慮義務違反に問われることはもちろん、端的に「ブラック企業」との社会的非難を浴びるおそれもあります。

 

 労務管理の現場では、台風被害の「可能性」という段階で休業させるかどうかの判断を求められます。昨今の社会情勢に照らせば、「賃金や休業手当がもったいないから」との理由で安易に出勤を命ずることは、大きな企業リスクを伴うと言わざるを得ません。

 

 そこで、現実的な対応策を検討すると、以下のような選択肢が考えられます。

・自宅待機とし、台風予測を随時確認しながら、落ち着いた段階でメールや電話等で出勤を指示

→あくまで業務命令であり、所定賃金全額の支払いが必要

・午前休、午後休とする

→勤務しない半日分は、不可抗力で無給とするか休業手当で対応

・有給休暇の取得奨励日とする ※他の手法と併用も可

・ウェブ会議システム、電話、リモート機能等を活用して在宅勤務を指示

→あくまで業務命令であり、所定賃金全額の支払いが必要

・前日までに振替休日として設定する

→休日となるので賃金の支払いは不要。ただし、就業規則上の根拠規定が必要な点に留意。

・各自の判断に委ね、可能な者のみ出勤させる

→出勤不可の方は、無給又は休業手当で対応

・全社休業とし、一律に六割の休業手当(又は所定賃金全額)を支給

 

 以上の通り、災害対応については、金銭(休業手当)の問題だけではなく、労働者の安全配慮義務や企業リスク管理等を総合的に勘案しつつ対応を決定する必要があります。非常時だからこそ、従業員も会社の「度量」に普段以上に注目しているはずです。

 災害は突然やってきます。今回の被害を教訓に、今一度、災害時の対応方針を労務管理の観点から再検討してみてください。