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基本給組込型の固定残業代が無効とされた事例

 今回は、基本給に組み込まれた固定残業代の規定が無効とされた事例(東京地判平成30920日労経速236815WIN at QUALITY事件)を紹介いたします。

 

 

 会社側は、トラック運転手の拘束時間が112時間に及ぶことを前提に、1日の法定労働時間の上限である8時間を超える4時間分につき一律1.5倍の割増しをし、「(基本給802)< 1.5倍)× 4時間」を時間外手当として支払う趣旨を定めたうえ、同算定式により算出される金額(4812円)は、「時間外手当」として日給の中に含まれる」という形で割増賃金が基本給に含まれている、と主張しました。

 しかし、裁判所は以下の通り判示し、固定残業代としての支払いの有効性を否定しました。

 

  「そもそも,被告の主張によれば,原告らに支給した賃金のうち,「時給802円×8時間」に月の勤務日数を乗じて算出される部分以外は,(リクルート手当や扶養手当を除けば)全て時間外労働等に対する対価であるというのであり,かかる被告の主張を前提とした場合,上記「時間外手当」のほかに,雇用契約書上「無事故手当」として基本給に含まれるとされる部分も,時間外労働等に対する割増賃金として支払われたものということになる。しかし,本件規定及びこれに整合する「時間外手当」の定めがありながら,これとは別個の手当てとして定められた「無事故手当」が,その名称にかかわらず,やはり時間外割増賃金等の趣旨で合意されたものとはにわかに解し難く,雇用契約書(書証略),就業規則(書証略)及び賃金規程(書証略)の記載によっても,これが時間外割増賃金等の実質を有するものであったとは認め難い。」

  「また,そもそも,原告らの実際の賃金支給状況は,必ずしも雇用契約上の定めに沿ったものとなっていない。(中略)雇用契約書の記載に沿わない賃金支払の実態があったことに照らすと,そもそも,雇用契約書(書証略)の記載自体が,原告らと被告との間の労働契約の内容を正しく反映したものであるかについて疑問があり,前記イのような被告の主張(「基本給802円×8時間」に月の勤務日数を乗じて算出される部分以外はすべて時間外労働等に対する対価であるとするもの)も,雇用契約書の内容と整合するものとはいい難いことも踏まえると,雇用契約書上に「時間外手当」とある部分に限って,なお時間外労働等に対する対価として支払うとの合意が労使間に有効に存在し,これに沿った現実の取扱いがなされていたとも認め難く,この部分に限り固定残業代として有効なものと認めることも困難である(もとより,被告もそのような主張をしない。)。そうすると,被告が時間外割増賃金等として支払ったと主張する部分が,通常の労働時間の賃金に当たる部分と明確に区分された上で,時間外労働等に対する対価として支払われたとは認められず,労働者において,労働基準法37条等に定められた方法により算定される割増賃金が正しく支払われているのかを検証することは困難であったといわざるを得ない。

  また,仮に,被告の主張するように,原告らに支払われた賃金のうち,「時給802円×8時間×月の勤務日数」により算出される部分以外は,すべて時間外労働等に対する手当として支払われたものであるとすると,予定される時間外労働等の時間数1箇月当たり145199時間)は膨大なものになる。これらの時間は原告らの実際の時間外労働等の時間数をも大きく上回るものであり,原告らの勤務の実態とかい離する。また,被告の主張を前提とすれば,これほど長時間に及ぶ時間外労働等を想定して割増賃金を毎月あらかじめ支払う一方,法定時間内の通常の労働に対する対価としては,平成27101日以降,基本給以外の手当の支払がない月には埼玉県の最低賃金額(同日を発効日とする平成27年度の最低賃金額は820円)をも下回る時給802円しか支払わないという不合理な合意であったということになるが,このような内容の合意が真実,労使間で有効に成立していたとは認め難い。

 

そうすると,結局,本件において,被告が時間外労働等に対する対価として支払ったと主張する部分は,①法定時間内の通常の労働の対価となる賃金部分と明確に区分されていないため,労働者において,労働基準法37条等所定の方法により算定される時間外労働等に対する割増賃金が正しく支払われているのかを検証することも困難である上,②予定される時間外労働等が極めて長時間に及び,原告らの実際の時間外労働等の状況とも大きくかい離するものであることなどからすると,原告らと被告との間の雇用契約において,真に時間外労働等に対する対価として支払われるものとして合意されていたものとは認められない。」

 

固定残業代については、すでに多くの裁判例がその有効性について言及しているところですが、近時、重要な最高裁判例でその判断基準が示されております(最高裁判所平成30年7月19日判決)。

同判決では、「ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは,雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか,具体的事案に応じ,使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容,労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである」と判示されております。

先ほどの裁判例は、基本給組入型でも同様の判断枠組みが妥当することを前提にしたものと位置付けられそうです。

したがって、固定残業代導入時には、単に通常の賃金部分と明確に区分されているかどうか、といった形式的な部分のみならず、労働者に対して適切な説明が行われているか、金額が客観的に見て適正額と言えるか、勤務実態との乖離はないか、といった実質的な部分に踏み込んで判断されるおそれがある点に留意すべきと言えます。